南日本新聞シリーズ企画
南日本新聞が展開しているシリーズ企画「精神障害とともに」で当研究会も取材を受けました。
連載記事を引用します。
南日本新聞2016年11月19日
精神障害とともに共生社会 探る旅へ・100年の記憶
隔離 国賠で問う 「ハンセン病と同じ」
「国の隔離、収容政策によって精神障害者への差別、偏見が広がった。ハンセン病問題と同じ、国による人権侵害だ」
10月中旬、東京の練馬文化センターで開かれた日本病院・地域精神医学会。長野県の精神保健福祉士、東谷幸政さん(61)は交流スペースで参加者らに語りかけた。「国の責任を司法の場で問う。日本の精神医療を変えるにはそれしかない」
精神医療に対する国家賠償請求訴訟の意義を語る東谷幸政さん(中央)=10月、東京・練馬文化センター
東谷さんは国家賠償請求訴訟に向けて活動している。福祉施設や病院勤務を通して精神障害者に30年以上かかわり、長期入院患者が社会復帰できない状況を数多く見てきた。
「地域の受け皿が全然足りない。長期入院患者は国策の被害者だ」。そんな思いを共有する精神保健福祉士や弁護士らと4年前、東京で国賠訴訟の研究会を立ち上げた。
賛同者は精神科医らにも広がり、現在140人を超える。これまでに障害者3人が原告として名乗りを上げている。さらに原告を増やし、早期の提訴を目指す。
背景には日本の精神医療の特殊な歴史がある。欧米では1960年代から、地域で暮らす障害者を支える体制の整備が進んだ。だが日本はそうした潮流に逆行した。民間の精神科病院の創設を促し隔離収容を推し進めた。
その結果、世界的にみても病床が多く、大量の長期入院患者を生んだ。国は2004年に政策転換したが、入院医療中心から地域生活中心への移行は進まない。
13年の国や県の調べによると、鹿児島は人口比の病床、入院患者、長期入院患者(20年以上)が最も多い。東谷さんは「鹿児島は世界的な病床密集地。鹿児島の当事者にこそ原告に加わってほしい」と訴える。5月には来鹿し、関係者に訴訟について説明した。
国賠訴訟は、元患者らの歴史的勝訴となったハンセン病訴訟を参考にしている。01年、国の隔離政策を違憲とする熊本地裁判決が確定した。
判決を受けて、国が設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」は05年、最終報告書でハンセン病元患者と精神障害者の類似点を指摘している。
具体的には、(1)医療より隔離、収容に重点が置かれ、療養環境は低劣だった(2)薬物療法の確立後も「不治の病」との誤信が残り、収容中心主義を批判する国際的意見を無視した―などだ。
検証会議メンバーで報告書の作成に携わった東京都の精神科医、岡田靖雄さん(85)は「患者救済より社会から異質な者を排除する考えがどちらにもあった」と話す。
熊本地裁判決は、患者隔離について「人生のありとあらゆる発展可能性を損なう」「患者は地域社会に脅威をもたらす危険な存在との誤った社会認識を生み出した」と結論付けた。
「精神障害者にも全く同じことが言える」。岡田さんはそう強調する。