第2回口頭弁論 2021年4月20日

1. 当日の裁判の様子

伊藤時男さんを原告とする裁判の第2回口頭弁論が、2021年4月20日に東京地裁で行われました。精神国賠研の会員は、地裁のロビーに10時に集合しました。今回は傍聴席に50名が入ることのできる103号法廷で行われ、傍聴抽選はありませんでした。新型コロナウイルス感染症の蔓延拡大を受けて、東京都にも緊急事態宣言が発令される間近の状況ということもあり、傍聴者は32名でした。

裁判は、被告国側の提出した準備書面の確認と次回期日の調整を行う事務的なものでした。弁護団より「医療保護入院(同意入院)のおかしさと危うさ」について国の釈明を求める発言がありましたが、素人目には何が行われているのかわからないまま、開廷5分程度で裁判は終わりました。

閉廷後、一同は霞ヶ関の官庁街を歩いて、西新橋の貸会議室に向かいました。会議室に29名、Zoomで20名の会員がオンライン接続し、計49名の参加者で報告会が行われました。

2. 被告国側の準備書面の内容

報告会では、長谷川弁護士より、被告国側が裁判所に提出した準備書面(1)の説明を受けました。今回の書面は、原告側が提出した「訴状」に記載した事実に対して、被告側が内容を認めるか/認めないかの「認否」を示した書面でした。

一般に、裁判では、互いの主張に対して、次の三つのいずれかの姿勢を明らかにしなければなりません。

・「認める」→その主張は、事実として争わない。

・「不知」 →その主張は、事実として知らない。

・「否認」 →その主張は、事実と異なり争う。

今回の書面で、国側は、原告の訴状の内容に対し、客観的な法律の内容や通達、勧告の存在等は認めるものの、概ね「不知」ないしは「否認」という態度を示しました。「原告が十分な退院支援を受けることなく自らの意思に反して精神科病院で過ごしたこと」についても、「不知」のみならず「否認」するとして、争う姿勢を見せています。その上で、被告国は、原告に対して、原告が主張する不作為の具体的な内容及び作為義務を発生させる法的根拠を明らかにするよう求めてきました。

すなわち、国側は、全面的に争う姿勢は見せるものの、現時点で国側から積極的に精神医療政策等の正当性を主張することはせず、原告側に主張立証をするよう求める姿勢です。

3.質疑応答・意見交換

 弁護士からの報告・説明を受けて、会場内およびZoom接続参加者と報道の方からの質問を受けて、長谷川さんに解説をしていただきました。ここでは、当日出された質問と意見交換の内容の主要な点のみ、古屋のメモから記しておきます。

・いくつか入院の種類があるが、強制入院の際の入院をさせる医師の判断の根拠がよくわからないので教えて欲しい。

・医療保護入院の判断は「医療及び保護の必要性」によるとされているが、「保護」の定義は曖昧で明文化されているものはない。

・精神医療審査会が機能しているかというと、概ね書面審査のみで行われており形骸化している。

・退院請求が行われた際には、精神医療審査会が入院している病院まで調査に来るが、ほとんど退院には結びつかない現状。

・「不知」と国が主張する項目は、今後どのように扱われるのか?

・「不知」は知らないので、訴えた原告側に詳細な説明を求めるもの。

・原告としては、医療保護入院の状況は、改めるべきであったのに不作為のまま放置され、違憲状態にあるという主張になるか。

・伊藤さんが本来は退院できたのに、十分な退院支援を受けることなく長期入院に至った点を、国が「不知」としているのは、どのような主張か?

・国としては、伊藤さんの経緯については「知らない」という主張になると思われたが、「否認」という形で争う姿勢も見せている。

・カルテを見た上でも、国は伊藤さんの「社会的入院」を否定しているのか?

・社会的入院状態にあることまで国が「不知」としているのかは不明。

・被告席には、厚労省・法務省で訴訟を担当する4名。傍聴席に厚労省の担当官も来ていた。

・この裁判は、かなり長期化するかと思うが?

・裁判の進行については、弁護団側でどれだけ具体的な主張や証拠を示していけるかによる。

・次回期日では、より具体的に明らかにしろと求めている被告側に対して、原告側から具体的な主張や証拠を突きつけていく形になる。

・国は「全面的に争う姿勢」で間違いないか?

・前回の期日での釈明の内容を、書面で今回示してきた。「不知」「否認」で争う姿勢。

・憲法違反状態にあることについての釈明は、今後求めていく。

・家族が退院後を支えられず長期入院している人が多い。

・そもそも医療保護入院の仕組みの問題は大きい。権利擁護する家族が強制入院に同意する構造は、患者と利益相反のコンフリクトを生む構造になっている。医療保護入院が、今回の裁判の主要な争点の一つになってくる。

・精神医療審査会に退院請求ができるということが、入院患者さんにちゃんと伝えられているのか。

・そういう退院請求という仕組みがあること自体、知られていない。本来は患者に伝えられるべきことだが、実際に告知されているか不明。

・この裁判でも、それを患者に周知すべき義務があることを、国が指導監督して徹底されているかどうかが問題と可能性はある。

・精神医療審査会については、制度としてあっても患者の権利擁護のためにほとんど機能していない。

・入院の必要性の判断は、どのようにされるのか?

・法律家は入院の必要性については抑制的に考えるべきであるが、現状はどうか。医療従事者は本人の地域での状況も踏まえて保護的に関わる傾向があるのでは。

・審査会委員5名の内、現行法では精神保健指定医は「2名以上」とされたが、改正前と同様に、自治体によっては過半数の3名が医師を占め保護的に運用されている実態がある。

・審査会の状況等、具体的な数字を出して検討して行くことも必要。

・退院請求しても誰もフォローアップしてくれる人がいないと、一人で訴えていくのは難しい。

・弁護士等が権利擁護の立場で関わる仕組みが不十分である。

・「皆に迷惑かけてきたから」と退院したくても言い出せず、言葉を呑み込んでいる長期入院者も多い。

・フランスでは、入院時には必ず司法が関与して、判事が直接患者と会って入院の適否を判断する。措置入院についても同様。

・多くの欧米諸国では、本人の意思によらない入院の場合には、司法が関与してジャッジしている。

・医療保護入院の場合の「保護」の部分が、日本では入院要件として安易に拡大して使われている。

・この裁判の報道を見て、双葉病院に入院していた患者が、伊藤さんの当時の様子や双葉病院での生活の実情を証言してくれることになった。

4.おわりに

被告国側は提訴内容に対して「不知」もしくは「否認」の姿勢で全面的に争う姿勢を示しています。国が示した準備書面は、きわめて事務的で簡潔なもので、どのような理由で「不知」なのか、「否認」するのかの詳細は記されていません。

次回裁判の期日は、6月29日(火)の午前11時からと決まりました。今回と同じ、東京地裁の103号法廷になります。傍聴席は50人まで入れますが、開廷数分前にドアが開かれての先着順になります。傍聴券の抽選はありません。

被告国側が「不知」「否認」とした釈明に対して、原告弁護団が訴状の内容に即して反論を展開していきます。いよいよ実質的な審理が始まります。その頃の新型コロナの状況は不透明ですが、時間の折り合いがつくようでしたら、ぜひご参加ください。30分前までには、東京地裁のロビーに集合としたいと思います。

なお、報告会会場でのワンコインカンパは7146円でした。ご協力ありがとうございました。都心で会場を確保するには、どうしてもお金がかかります。今後ともよろしくお願いいたします。

引用元

古屋龍太「被告国側は不知/否認で全面的に争う姿勢~第2回口頭弁論の報告~」精神国賠通信,No.15;1-3,2021年5月発行

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