第6回口頭弁論  2022年2月24日

1.異例続きの裁判と報告会

2022年2月24日(木)、東京地裁で第6回口頭弁論が行われました。今回は、少々異例のことが続きましたので、少し細かくご報告しておきます。

11時から地裁のロビーで、集まった会員の方々と、円陣を組んで、22日に71歳の誕生日を迎えた伊藤時男さんに「おめでとう!」と拍手をしていたら、警備員から「集会は禁止です」と注意を受けました。

103号法廷の傍聴席には37名、原告・弁護団を合わせると42名の方に今回参加していただきました。原告・被告側双方が揃っていても、裁判官が現れず開廷が遅れました。ようやく現れた裁判長はこれまでの方とは違い、「交代しました」とひとこと挨拶しました。裁判の冒頭では、裁判官が、傍聴席でマスクをしていない方に着用を求めましたが、拒否をされたので、周囲の方に注意喚起していました。

裁判自体は、今回被告国側から提出された準備書面の確認と、次回期日の調整のみで、開廷してからものの5分程度で終わりました。

その後の報告会は、参加者がタクシーに分乗して、新橋駅近くの安価な貸会議室まで移動して行われました(タクシー代は全て会の経費で負担しましたが、それでも霞が関近辺の高額な貸会議室を借りるよりは、はるかに安く済みました)。

報告会はランチョンミーティングとなりました。会場参加者は36名、Zoom参加は17名、計53名の参加者でした。弁護士報告のシーンで、一回Zoomが落ちてしまったため、長谷川さんには改めて、被告国側の準備書面(反論書)の内容をお話しいただきました。また、会場で配布した「報告会資料」がなぜか画面共有できず、Zoom参加の皆さんにはわかりにくかったことを、お詫びいたします。

今回の裁判で被告国側から提出された「準備書面(4)」による反論の内容は、要約すると以下の「 」内に記したような内容となります。

2.原告の入院形態について

伊藤さんが、同意入院/医療保護入院であったか否かについて、被告国側は「カルテに定期病状報告書の記載がないことから、医療保護入院ではない」としています。「保護者の記載も入院形態に関わらず存在していたもので、保護者の記載は入院形態と関係がなく、転帰日の記載も入院形態の変更に伴うものではない」と反論しています。

わかりにくいので補足しますと、これはカルテ記載がずさんであったための争点になっています。通常は、どこの病院でもカルテの冒頭部に、入院期間と入院形態が記されているのが当たり前ですが、この記載がありません。また、任意入院でも医療保護入院でも、その入院形態に沿った書類がカルテに綴じられていて当たり前ですが、その書類が見当たりません。今回の裁判の争点の一つは「医療保護入院」制度です。被告国側は、伊藤さんが医療保護入院であると主張する証拠はカルテ上に無いことから、そもそも原告には医療保護入院の不当性を訴える資格はない、と反論している訳です。

3.立法不作為について

(1)入院の必要性について

原告側の「入院の必要性について、本人が適切な判断ができず自己の利益を守ることができない場合があるという立法事実はない」という主張に対して。被告国側は「統合失調症の患者が、症状・病状による影響で自発的に治療を求めることができない状況になることはあり得る。本人の利益を守るために強制入院が必要となる場合がある」と反論しています。

(2)医療保護入院の判定について

原告側の「医療保護入院の法文上、判断能力が低下している場合に限定されておらず、正当な目的があるとは解されない」という主張に対して。

被告国側は、「『精神障害者措置入院及び同意入院取扱要領について』を発出し、自由入院を許容している」と述べています。また、「厳格な審査や定期的な研修等によって質が確保され、正当性が担保された『精神保健指定医』による判定が必須となっており、無限定に入院が許容されているわけではない」と反論しています。

(3)医療保護入院の「保護」の曖昧さについて

原告側の「医療保護入院の『医療及び保護』の要件が曖昧である」という主張に対して。

被告国側は、「精神疾患の特殊性として、個々の患者で対応が異なることから、医療保護入院の判断は画一的な基準で規制すべきではなく、基本的には医師の裁量が尊重されるべきである」としています。「平成11年(1999年)法改正時においても同様の議論がなされ、法律に基づく基準として一律に規定することはふさわしくないとされた」と当時の検討会の議論を示しています。他方で、「前述の『精神障害者措置入院及び同意入院取扱要領について』の通知では、疾患ごとに状態等に応じて入院を必要とする標準を示しており、さらに指定医の判定が必須であって、医師の全くの裁量に委ねられているわけではない」としています。

(4)保護者の同意要件と長期入院について

原告側の「保護者等の同意が要件であることは強制入院の正当化する事由たりえず、強制入院の責任者を曖昧にさせ、かえって原告のように長期入院の原因になっている」という主張に対して。

被告国側は、「精神保健指定医の判断があるのであるから、保護者等の同意の要件は長期入院の原因とは関係がない」と反論しています。

(5)精神医療審査会について

原告側の「精神医療審査会が機能していない」という主張に対して。

被告国側は、「個々の事案の実情や実務上の運用における問題点等は、国賠法の違法性の要件である『権利侵害の明白性』の要件を満たさない」としています。さらに、「カルテに外泊や外出等の記載があり、憲法上の権利を侵害するような入院処遇の実態があったとは言い難い」と反論しています。

4.精神医療政策の違法性について

(1)精神科特例について

被告国側は、「その内容が一義的に定まるものではなく、その性質上、これを定めるべきともいえず、厚生大臣に作為義務は発生しない」としています。また、「精神科特例の存在と、原告が退院できなかったこととの因果関係について、原告の主張は具体的なものではない」と反論しています。

(2)隔離収容政策から地域医療政策に転換すべき義務について

被告国側は、「原告の主張によっては、条理に基づく厚生大臣の作為義務は認められない」としています。また、「勧告等を踏まえて、国は一定の施策を講じてきている」と反論しています。

5.任意入院の違法性について

(1)任意入院改廃の立法不作為について

被告国側は、「任意入院制度の目的、入退院の要件・手続等に鑑みて、任意入院の制度を定めた精神保健法及び精神保健福祉法の規定は、『権利侵害の明白性』はない」としています。「『任意』の意味が本人が希望するだけでなく、積極的に拒んでいない状態を含むというのは、任意入院の中心的意義が非強制という状態での入院を促進することによるという考え方にたっており、また、書面によって本人の意思を確認していること、退院制限も限定されていること、退院請求も可能であること等からすれば、任意入院の制度が無制限な長期入院が可能であるともいえない」と反論しています。

(2)厚生大臣の不作為について

被告国側は、「原告の主張によっては、条理に基づく厚生大臣の作為義務は認められない」としています。また、「原告が任意入院から退院できなかったことについて何ら具体的な主張・立証がなく、原告のカルテからはそのようなことがわかる記載はない」と反論しています。

6.報告会における議論

以上のように、立法及び厚生大臣の不作為を問う原告に対して、被告国は「作為義務は認められない」と法律論で退けようとしています。この被告国側の反論内容に対して、報告会に参加された方々からは様々な意見が出されました。いくつかピックアップさせていただくと、以下のような事柄です。

①現行法に規定のない、いわゆる『自由入院』の存在と歴史的経緯、②医療保護入院等の強制入院の手続きと『保護』の判断基準の曖昧さ、③精神科入院時において医師の裁量権がフリーハンドとなっている問題、④現行の精神保健福祉法の内容を憲法に照らして評価していくことの必要性、⑤厚労省も把握しているはずの急増している隔離拘束等の実情、⑥伊藤さんも従事させられていた院内・院外作業等の院内使役の問題、等々。

報告会の場では、伊藤さんから双葉病院入院中の驚くべき事実も明らかとなりました。多くの質疑討論・意見交換が1時間半にわたってなされました。

7.次回の裁判

次回の第7回裁判期日は、5月16日(月)午前10時開廷です。被告国側に対して、今度は原告弁護団側からの再反論が展開されます。今回、新しい裁判長に交代しましたが、多くの人がこの裁判の行方を注目していることを示していく必要があります。ご都合の付く方は、ぜひご予定に組み入れていただき、法廷傍聴行動への参加を宜しくお願いします。

出典元

古屋龍太「被告国側は『作為義務』を否認―第6回裁判期日の報告―」精神国賠通信,No22;1-3,2022年3月発行

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