声明~厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」における議論について~
厚生労働省「第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」が2022年6月9日開催されました。
「措置入院、医療保護入院制度を規定する精神保健福祉法等の撤廃のために講じた措置について情報提供せよ」「無期限の長期入院を終わらせること」という国連・障害者権利委員会からの要請を受けて開催されている「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」ですが、日精協の横槍が入って以降、当事者委員等の反対意見を無視するかのように、トーンダウンが続いています。提出された資料は以下のリンクからダウンロードできます。
第13回検討会
(資料)地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書(案)
(参考資料)
このような検討会に対して、特定非営利活動法人 日本障害者協議会、精神科医療における身体拘束を考える会、弁護士有志から声明が出されました。
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》声明~厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」における議論について~
全文掲載します。
2022年(令和4年)6月8日
声明~厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」における議論について~
厚生労働大臣 後藤 茂之 殿
弁護士有志
特定非営利活動法人 日本障害者協議会
精神科医療における身体拘束を考える会
昨年10月より、厚生労働省の「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」(以下「検討会」という。)において、地域精神保健医療福祉体制のあり方や、精神障害者の入院に関わる制度のあり方等に関する議論が行われている。
検討会でとりまとめられた報告書をもとに、本年秋に予定される臨時国会において精神保健福祉法改正法案が提出されるとの情報も聞かれるところであるが、検討会は、以下に述べるとおり、手続的にも内容的にも問題が多い。
すなわち、検討会では、精神保健福祉法制の根幹に関わる重要なテーマが議論されているにもかかわらず、当事者から意見を聴取しこれを政策に反映する機会は殆ど設けられていない。2013年精神保健福祉法改正時の附帯決議[1]が踏まえられていないといわざるを得ない。
精神保健福祉法は、精神障害者の人権に大きく関わる法であり、法改正の議論には法律実務家の関与が不可欠である。この点、弁護士は入院中の精神障害者の権利擁護者として、退院請求・処遇改善請求に関わる立場であり、そうした背景をもとに、日本弁護士連合会では、昨年10月15日付「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」(以下「決議」という。)を発表した。同決議は貴省宛に執行済であり、貴省も決議の意義を認識していたはずである。しかるに、検討会では、日本弁護士連合会に意見を聞く機会さえ設けられなかった。
他方で、本年5月9日検討会では、日本精神科病院協会(以下「日精協」という。)山崎学会長による参考人意見陳述が実施された。日精協は、いうまでもなく私立精神科病院が加盟する団体であり、日本の精神病床の85%が同協会所属の病院にあるとされ、まさに精神科医療福祉体制における主たる利益関係団体である。
事実、3月16日に行われた検討会では、医療保護入院(精神保健福祉法33条1項)の廃止・縮小が明確に提示されていたが、上記日精協会長の意見陳述後の5月30日の検討会で示された報告書案では、医療保護入院の「廃止」はおろか「制度の将来的な継続を前提とせず課題の整理に取り組みつつ、その縮減に向けた具体的かつ実効的な方策を検討する」という表現さえ消え去っている。精神科医1名の判断及び家族等の同意を要件として病院管理者の権限で強制的に入院させる医療保護入院(法33条1項)は、世界でも特異といわざるを得ない制度であるにもかかわらず、「諸外国においても患者の同意を得ずに入院を行う制度は存在して」いると、あたかも医療保護入院と同様の入院制度が諸外国にもよくあるかのような不正確な記載が報告書案に示されている。
利益関係団体代表者による意見陳述が検討会終盤に突如として、かつ1時間以上にわたって行われ、その後、検討会での実質的な討議を経ることなく、報告書案の内容が逆方向に大幅に修正されたが、このことについて、何ら合理的な説明がなされていない。このような検討会のあり方は、検討会のあるべき公正と信頼を損なっているといわざるを得ない。
しかも、本検討会では昨年10月の開催時に示された趣旨の範囲にはなかった身体拘束要件(法37条1項を受けた厚生労働省告示)の見直しが提案されているが、身体拘束の違法性が確定した判決を受けて日精協が令和3年11月22日付声明[2]を発表したことに端を発するとの疑念を抱かざるを得ない。
厚生労働大臣は、このような議論の進行手続及びその内容について説明責任を果たさなければならない。
このような、民主主義にもとる非実証的議論のあり方によって精神障害者の人権が左右されることは認められず、精神保健福祉法改正の議論に際しては、当事者[3]の意見を中心に、人権擁護に関わる法律家の参加を得た上で、慎重に議論されなければならない。
我々は、拙速で一方的な議論の進行及び精神障害者の人権保障に逆行する本検討会の議論について反対し、本声明を提出する。 以上
有志一同(順不同)
特定非営利活動法人 日本障害者協議会 代表 藤井克徳
精神科医療の身体拘束を考える会 杏林大学教授 長谷川利夫
弁護士 柳原由以 弁護士 黒岩海映 弁護士 髙橋智美 弁護士 前原潤
弁護士 青木佳史 弁護士 池原毅和 弁護士 東奈央 弁護士 八尋光秀
弁護士 伊藤俊介 弁護士 延命政之 弁護士 採澤友香 弁護士 原田直子
弁護士 福島健太 弁護士 田瀬憲夫 弁護士 佐々木信夫
以上
[1] 衆議院附帯決議には「二 精神科医療機関の施設基準や、精神病床における人員配置基準等については、精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針の内容を踏まえ、一般医療との整合性を図り、精神障害者が適切な医療を受けられるよう、各規定の見直しを検討すること。なお、指針の策定に当たっては、患者、家族等の意見を反映すること。」として、当事者の意見反映が必要であるとされた。
なお、衆議院参議院いずれの附帯決議にも「一 精神障害のある人の保健・医療・福祉施策は、他の者との平等を基礎とする障害者の権利に関する条約の理念に基づき、これを具現化する方向で講ぜられること。」として障害者権利条約に整合するように制度構築していくことが求められていた。
[2] 日精協声明「令和3年(受)第526号上告受理申立て事件に対する最高裁第3小法廷の不受理決定について」
[3] ここでいう「当事者」とは、医療提供側ではない。なお、精神障害者は420万人以上いるとされるので、広く複数の当事者参画が必要である。
●精神科病院の虐待通報義務を明記していない
●医療保護入院撤廃・縮小方針も撤回
これを元に、国連障害者権利委員会から出された、事前質問への回答を作成し、今夏にもジュネーブで開かれる対日審査に臨むのであろうか。