社説 精神保健法改正 強制入院への懸念残る《東京新聞社説より》
東京新聞・2022年10月28日社説より転載します。
精神科病院での強制入院の根拠となる精神保健福祉法の改正案が国会に提出された。強制入院の大半を占める医療保護入院を存続させ、入院手続きの簡便化を図るなど懸念の多い内容だ。
改正案は障害者雇用促進法改正案など関連五法案と一括した「束ね法案」として提出された。
しかし、多くの問題も含み、ほかの法案との関連性も薄い。一括して審議するのは問題だ。束ね法案から切り離して審議し、強制入院などを巡る懸念が解消されなければ、法案を撤回すべきだ。
国連障害者権利委員会は今夏、日本の政策を初めて審査し、改善を勧告した。特に精神科医療については強制入院を問題視し、制度の根拠となる法律の全廃を要請したが、今回の改正案は勧告を無視した内容と言わざるをえない。
日本の精神科病床数は経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の四割弱を占める。この異様な数字は入院の半数弱を占める医療保護入院によるところが大きい。
現行の医療保護入院では、入院には指定医とともに家族などの同意が必要だ。患者に身寄りがないなどといったケースに限り、市町村長が同意を代行している。
今回の改正案は、家族が意思表示しない場合でも市町村長の同意で入院を可能とする。現場で医師が入院の必要性を説けば、行政がそれを拒むとは考えにくい。
障害者団体が改正案に対し、不要な入院の増加を懸念するのは当然だ。そもそも入院の原則は本人意思による任意入院にあることを忘れてはなるまい。
改正案を作成した厚生労働省は当初、有識者検討会で「医療保護入院の将来的な全廃を視野に」と説明していたが、病院団体の反対で「信頼できる入院医療の実現」へと方向転換した。改正案に反対する障害者団体などは、政府への不信を強めているのが実情だ。
改正案は、病院内で後を絶たない患者への虐待に関し、職員らを対象に都道府県への通報義務や通報者保護を盛り込んではいるが、実効性には疑問が残る。
人権保護が主眼の障害者虐待防止法の対象に精神科病院を加えるのではなく、医療が主体の精神保健福祉法の枠内での手直しだからだ。福祉法にはすでに指導監督制度はあるが、第三者性に乏しく機能していない。改正案がその二の舞いになることを懸念する。
中日新聞社