第10回・第11回・第12回口頭弁論  2023年2月21日・5月15日・7月25日

第9回裁判期日(昨年11月29日)以降の報告が滞りましたが、2023年に入ってからの第10回~第12回の伊藤裁判の動向をまとめておきます。

第10回(2月21日)、第11回(5月15日)、第12回(7月25日)の裁判では、原告側から様々な証拠書類を提出しています。具体的には、会員各位から寄せられた130名分の証言を集約整理した報告書、専門家の意見書(精神科医6名、福祉関係者3名、憲法学者1名)、韓国の裁判例、国連拷問禁止委員会からの勧告、大阪精神保健福祉審議会(1999年)、精神神経学会等の意見書、原告伊藤さん本人の陳述書等です。

これらを要約する形で提出された原告準備書面6の内容から一部抽出して、原告側の主張を記します。

1 医療保護入院制度は隔離収容目的であり違憲であることについての意見等

・日本の精神障害者の入院は歴史的経緯から社会防衛の機能が重視されてきた

・入退院の医療提供は、病状とは無関係の事情により決定がなされている

・入院の長期化は施設症ないしは退院意欲を喪失させるため、避けなければならない

・精神科病院が適正な医療を提供する場となっていない

・家族を同意者(保護者)とする仕組みが隔離収容を増長させている

2 医療保護入院制度が人権制約の「手段」としても許容されるものではないことについての意見等

・より制約が少ない他の手段をとりえないこと等が規定されていない(韓国の憲法裁判所、日本精神神経学会、国連等でも指摘されている)

・支援を尽くしてもなお本人が入院の是非を判断できないことが規定されていない

・要件が曖昧である

・司法審査が欠如している(指定医の利益相反性など)

・2007年の国連拷問禁止委員会による審査では、「私立病院における民間の精神保健指定医が、精神障害者に対する拘束指示を出すに当たっての役割を担っていること」に懸念を表明しているが、この「拘束指示」の原文は「detention orders」であり、抑留等人身を制約する強制入院をさしている

・入院期間を制限すべき

・精神医療審査会による審査等は機能していない(中立性・独立性に疑義、書面審査は機能していない実態、そもそも退院請求等に至らない実態、審査が適正に行われていない)

・家族の同意は患者の人権擁護として不十分

3 精神科特例の違憲性についての意見等

・精神科においては一般医療以上に医療従事者が必要である

・精神科特例が患者の治療に悪影響を及ぼしている

4 地域医療中心の政策への転換義務違反についての意見等

・クラーク勧告やルコントレポートで「社会復帰施設整備義務」があることが明記されるなど、国には社会復帰施設整備をしなければならないことは明らかであったにもかかわらず、国は、財源の分配、住居、作業所や生活支援の整備などを怠った

・入院医療を民間病院に委ねてきたという先行行為がある以上、民間病院に地域医療でのインセンティブを付与するなど、条理上、国は「地域医療充実義務」を果たす必要があるにもかかわらず、地域医療の促進を怠った

・国が主張する施策については社会復帰に効果的ではなかった

5 精神科病院に対する指導監督義務違反についての意見等

・国は、経営を重視せざるを得ない民間精神科病院を乱立させ、強制入院権限を与え、少ない医療従事者でよしとする政策を実施した(先行行為)のであるから、入院が長期化せず、適正な医療が提供される指導監督する義務があるのに、実質的に機能していない監査しか行っておらず義務を怠った

6 入院治療の必要のない人に対する救済義務違反

・上記同様、国の先行行為によって、入院治療の必要のない人が入院を強いられることとなったという実態があるにも関わらず、国はそれらを救済するための措置を講じてこなかった

・国が主張するような退院促進支援事業は、不要な入院を強いられた人を救済するためのものとして機能していない

7 任意入院の違憲性

・任意入院は、任意性が担保されておらず、強制入院との区別も不適切であり、強制入院と同様の処遇を受けるものものあり、さらに退院制限の仕組みによって強制入院と類似の圧迫感を患者に与えており、実質的には強制入院として用いられている実態がある

8 因果関係

・原告のような社会的入院患者は日本では広く見られており、それらは同意入院・医療保護入院制度や国の政策に起因している

裁判および報告会には、この間55名~85名の傍聴参加者を得ています。今後は法廷での証人尋問を裁判所に求める予定ですが、早ければ2024年春に結審を迎える段階に至っています。ここまで相当な時間を要する作業に取り組んでいただいた弁護団の方々に感謝致します。また、毎回裁判報告会に同席いただき解説をしてくれている長谷川弁護団長に改めてお礼申し上げます。

引用元

古屋龍太「裁判期日(第10回~12回)の報告」精神国賠通信,No.30;1-2,2023年8月

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