『障害』を考える 1《プロローグ》

はい。ここで問題です。
あなたが信号のない交差点を通りかかった時、白杖(視覚障害者がもつ白い杖)をもった人がたたずんでいました。
そこは比較的交通量が多くて、横断歩道も点字ブロックも整備されていません。
さて、あなたならどうしますか。
A 飛んで行って、手を引き介助する
B チラ見して、バックれる。後で、信号つけた方がよいと役所か警察に言うかも

Aの「飛んで行って介助」。ムカシ、おかあさんやお父さんから言われたよね。『困っている人をみたら助けなさい』って。あたり前~

ナルホド~ ヒトとしてそう思って当然ですよね~ いい子~
でも。
その見えない人は、果たして本当に困っていたのでしょうか。白杖を垂直に持ち、頭上50センチ程度掲げるのがSOSの合図。その人はそれをしていませんでした。
渡るタイミングをみはからっていた最中で、声をかけたのは、ひょっとすると余計なお世話だったのかもしれません。
手を引いて助けてあげれば、もちろん、その人はあなたに笑顔でお礼をいうでしょう。
〝嗚呼、良いことをした〟あなたも笑顔になります。

しかし、本当に手助けを望まれていたのでしょうか。あなたはその人がそこを通る度に毎回手助けをできるのでしょうか。他の場所でも、その人に同行して、すべての交差点で介助できますか。それなら問題ありません。そうでないなら、そうして、その人に差し迫った危険がないのであれば、むやみに介助することはその人の能力をスポイルすることになりはしませんか。できることをできなくさせては本末転倒です。
だから、美談ではあっても、問題の解決にはならないし、下手をするとその人の研ぎ澄まされた感性を鈍化させることにもなりかねません。モチロン、クルマが向かって来ているのに、渡りはじめようとしているとか、駅のホームで電車のとまっていない側に向かって歩き始めて転落の危険があるとかの場合は、ただちに注意喚起しなくてはいけませんよ。したがって、この場合Aは不正解。

えー マジ~?

Bの「チラ見」するというのは、困っているかどうかを判断して、困っているのなら助けるし、そうでないのであれば、見守るということ。障害の有無にかかわりなく、皆、自立した個人なのですから。余計なお世話は、たとえ笑顔で返されたとしても、その人の心の奥に、差別された感が残るかも。
問題なのは、その交差点に信号も横断歩道も点字ブロックもなかったこと。こうした社会の側にある問題を『社会的障壁』といいます。
もし健常者と同じように誰の手も借りずに、交差点を渡れないのだとすれば、不便だなぁと感じていれば、社会的不利益を被っていることになります。不平等ですよね。
この社会的障壁をまず、取り除くことが必要なのではないでしょうか。
そして、それが不便だと声をあげるのは不便を感じた本人です。通報するかも、というのは問題を提起するということ。声を上げるべき障害者と行政双方に問題提起をするのが健常者の役割なのではないでしょうか。

障害者とは誰のことなのか、ということに関していろいろな考え方があるとは思うけれど、心身の機能の制約のある人のことを指すのではなくて、それが起因した社会的障壁により社会的不利益をこうむっている人のことを指す、というのが今の考え方。だから、心身の機能制約はいわば、個性=アイデンティティ。障害は社会的障壁のことを指すというのが主流なんだ。
日本では一般化しているとはまだまだ言い難いけれどね。
心身の機能制約を治療の対象として捉えるのを障害の医学モデル、そうじゃなくて、見えない人が見えないこと、聞こえない人が聞こえないのは日常のあたり前のことで、それによってこうむる社会的障壁のことを障害とするのが社会モデルというんだけど、それはまた次回。

コラム

日本では、障害者権利条約の批准に際して、視覚・聴覚・身体・精神などの障害者運動を担ってきた団体が初めて一堂に会し、日本障害フォーラム(JDF:Japan Disability Forum)が組織されました。このJDFが声を上げることによって様々な法改正がなされ、障害者差別解消法(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」2013年成立、2021年改正)では障害を理由とした社会的不利益を取り除くよう配慮すること(合理的配慮という)が、公的・民間を問わず全ての事業体に義務化されています。

この法律は、①障害者が事業者に合理的配慮を求めた時に、その配慮の方法を事業者が決定する(例えば、筆談の不得意な聴覚障害者が、職場内での合理的配慮として手話通訳を要求したとしても、会社側は、過度の費用負担を理由に、筆談による配慮を決定できる)
②そもそも合理的配慮そのものが、障害者と健常者を同じ土俵に置いて、互いに競わせるものに他ならないといった、批判・問題点も存在しますが、全ての事業体が配慮することを義務化されたことは評価されてもよいのではないでしょうか。点字ブロックの設置や車椅子用スロープの設置などは言うまでもなく、合理的配慮です。

障害者基本法(1970年成立、2011年改正)

第4条(差別の禁止)何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。

2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

(文責・MAN太郎)