みんなで考える精神医療 第1回


みなさんはじめまして。国賠研広報部会のNASUMIです。
このコーナーでは、精神医療に関するいろんなことを、初めての人でも楽しくわかるように伝えていきたいと思っています。
「精神医療について勉強しなきゃ!」と緊張せず、 気軽に読んでください!

なるべくわかりやすい言葉を使うことを心がけていますが、すこ〜しだけ法律や出来事などの聴き慣れない固有名詞が出てきます。
こういったものはまた別の機会にお伝えするつもりです。
知らない言葉が出てきても、とりあえず「そういうものがあるんだな〜」くらいに思ってください。

また、ここでお伝えしていることは、あくまで登場人物たちの「意見」です。
この業界の中にもたくさんの意見や考え方、事実の捉え方があり、ここでお伝えしたことが正解というわけではありません。
このコーナーが皆さんの、精神医療について考えるきっかけになればいいな〜と思います。


この記事の登場人物


【NASUMI】
精神保健福祉士。精神科病院での勤務経験あり。
飼っている金魚の体調の変化に敏感。金魚の元気がないとすぐにきがつく。
最近ではペットショップの金魚まで体調をチェックしている。


【なめこ】
NASUMIの夫。
焼肉屋で馬刺しを食べて食中毒にかかり一週間入院したことがある。
それ以降、馬刺しは一生食べないと心に誓った。
精神医療のことはさっぱり知らない。



そもそも精神科への入院ってイメージできないと思うけど、内科とか外科とか、他の科への入院とは全然違うんだよね。知ってた?


そうなの?僕は前に、食中毒で入院したことがあるけど、何か違うの?


精神科病棟には、他の科への入院だと考えられないような、精神科特有のルールが存在するんだよね。
病院によっては、人権侵害といえるようなことが治療という名目で当たり前に行われている。


医療行為なのに人権侵害なの!?


日本の精神科医療の大半は、もはや適切な治療がなされているとは言えない現状にあるのよ。


突然ですが!ここでゲストを紹介します!精神科医療・福祉のソーシャルワーカーとして35年勤務、今も最前線で活躍中の大先輩、東谷幸政さんです!


どうも。東谷です。


この記事の登場人物


精神医療国家賠償請求訴訟研究会の代表
長野県精神医療人権センター代表
野党共闘を進める富士見市民の会代表
無農薬有機農法でめちゃくちゃうまいトマトを栽培している。
なめこは東谷さんのトマトを食べるために国賠研に入った。



よろしくお願いします。コロナ禍で東谷さんのトマトが食べられなくて残念です。


ありがとうございます。
本題に入りますね。日本の精神科病院に入院している患者の多くが、実は入院を必要としていなかったり、そんなに長い期間の入院を必要としていなかったりするんですがご存知でしたか?


入院しているのに、入院が不要???病気の治療のために入院しているんじゃ…


もともと日本以外の海外では、精神科において入院が必要な患者というのは、自傷他害の恐れがあるくらい病状が重い患者だけなんです。
様々な理由で自分の体を傷つけたり他人を傷つけてしまう恐れのある患者を、病院の中で一時的に保護することが精神科病院における入院の本来の目的なんです。
現在、日本の精神科病院に入院している患者にここまで病状が重い人はそんなにいません


私が働いていた病院でもそういう人はあんまりいなかったよ。


そもそも入院が必要な人はかなり限定的なのね。


あれ?じゃあ、なんで入院の必要がない人がたくさん入院しているんだ???


入院の必要がない人がたくさん入院していたり、多くの人が必要以上に長い期間入院していたりするのは、病院の経営を維持していくために必要だからです


病院の経営を維持するため!?治療とか保護のためじゃなくて、利益を出すために入院患者が必要ってことなの!?


そう。残念だけど、今入院している人達にとって『入院』というものが、治療としての意味や効果を持たないことは多いの。


日本の精神科病院のベッド数は国公立病院が1割、あとの9割は民間病院なんです。
民間病院ということは、ちゃんと利益を出さないと倒産してしまう。
そのため、どうしても治療よりも経営が優先されてしまう。
また、精神科は診療報酬が他の科よりも安く設定されているんです
つまり、入院患者一人あたりの収入が少ないから、お金を稼ぐためには多くの患者が入院していないといけない。
だから、精神科病院のベッドはいつも患者で満たしておく必要がある。


私がいた病院もベッドを9割埋めるのがノルマだったよ。
他の入院患者が来るまでは今入院している人を退院させないなんてことが当たり前にあった。


これは患者の人生を奪って金を儲けているとも言えるよね。


そもそも病院が潰れてしまっては元も子もないけど…もはや医療とよべるのだろうか…


ここまででだいぶ落ち込んだと思うけど、まだまだ精神科の問題点はあるの。
精神科の病院に入院すると精神科特有のルールに縛られることになる


すでに精神科への不信感がすごいんだけど、まだなにかあるの…


病院ごとに多少の差はあるけど、自由にスマホや電話を使えない『通信制限』、自由に好きなときに外出できない『外出制限』、家族か弁護士、役所の人くらいとしか会えない『面会制限』、患者の所持金は看護師が管理するといったルールがあるの。
これらのルールは非常に病状が重い人には必要な場合もあるけど、病状が重い人以外にはほとんど必要がない。


今の精神科病院では、患者の『管理』が目的になっているんです。
『治療』のためではなく『管理』のためにルールが作られ、そのルールのもとに患者が『管理』されている。


なんかまたいや〜な言葉がでてきた。『治療』ではなく『管理』というのはどういうことなんですか?


それぞれのルールは患者の治療のためにあるのではなく、患者が問題を起こしてしまう可能性を未然に潰しておきたいという病院側の都合から作られたルールだということです。
具体的には、通信制限というのは、患者がどこかに電話をかけまくってしまって病院にクレームが入るのを事前に防ぎたいという意図があるんです。外出制限も同様で、患者が外で自殺してしまったり他人を傷つけて迷惑をかけてしまうことを事前に防ぎたいため。面会制限も不要なトラブルをさけたいため。金銭管理は、患者が盗難にあったという妄想をしてしまい病院内でトラブルになることを防ぎたいため。
一方で、全ての患者がこういった問題を起こすわけではありません。こういったルールをまったく必要としない人もたくさんいます。しかし、個別の事情に合わせて対応することは大変なので、全員まとめて一律に管理してしまえというのが、精神科病棟の患者に課せられたルールなんです。


スマホも使えず、友達にも会えず、外にも出られないなんて…もはや監禁に近いのでは…


これらのルールは明確に人権侵害と言えます。『管理』という目的のために、必要のない人までルールで縛っているのが精神科の現状なんです。


病院では、患者のお薬の管理を看護師がしているんだけど、これも実は大きな問題なの。


薬の管理はむしろちゃんとやってあげた方が良さそうな気もするけど…


精神科の場合、患者自身が薬を管理できるようにサポートして、退院後も生活していけるようにしてあげることが本来の病院の仕事のはずなんです。
しかし、現場の職員は忙しくて個々の事情に合わせて対応を変えることができない。
だから全ての患者の薬を一律に管理することになる。
見方を変えると、薬を看護師が管理してしまうということは『飲む薬を自分で管理する機会を患者から奪っている』とも言えるんです。


なるほど。薬の一括管理というのは『自分で管理する機会』を奪っていることになるのか!


日々の忙しさの中で、『管理』こそが病院の仕事だと勘違いしてしまっている病棟スタッフがとても多いですね。


精神科がやべーことはよくわかったのですが、精神科病院で働く人たちはどのように感じているんだろうか。
もともとはちゃんと医療を志して入ってきたのに、現実がこんな状態では、理想と現実がかけ離れすぎていて辛いんじゃないかな…


現場の人々の苦悩はもちろんあるね。
でも、仕事が忙しすぎたり、病状の重たい患者さんと関わる中で疲れてしまって、現状に対して疑問を持つことを諦めてしまうことが多いの。


忙しいと目の前の仕事をこなすだけでも精一杯になっちゃうよね…


精神科には昔作られた精神科特例という法律が今も生きていて、『精神科のスタッフは他の科より人数が少なくていい』と法律で決められているんです。
精神科にはギリギリの人数のスタッフしかいないから、一人一人の仕事の量がとても多い。
また、労働組合のない精神科病院がほとんどで、院長の権限が非常に強い病院が多い。
治療に関して文句を言おうものなら、すぐに解雇される可能性もあります。病院で働くスタッフ自身にも生活があるから、何も言わずに我慢して働くしかなくなってしまうんです。


え〜…そんなの辛すぎませんか…


僕の知り合いで院長を『〇〇さん』と呼んだことが原因で解雇された人もいましたよ。
理由は『〇〇先生』と呼ばなかったかららしいです(笑) それくらい院長の権力が強い。


一部のスタッフは思い悩んで辛くなってやめてしまうの。私もその一人。


なんて悲しい現場なんだ…


精神科の問題は、各病院やそこで働く人を悪者にすれば済む問題ではないの。


たしかに。ここまで聞いてかなり根が深い問題なのかもって思った。


日本の精神医療における人権侵害は国内外で問題視されているんです。
1968年にWHOから出された『クラーク勧告』でも、日本の精神医療における人権侵害が国際的に非難されました。
しかし、国はこの事実を揉み消し、クラーク勧告に関する国の公式記録は残っていません。


まじかよ!


1983年に宇都宮病院問題という事件があり、日本の精神医療における人権侵害が国内で大きな問題となりました。
これにより、一部法改正も行われたんですが、根本的には何も解決していません。


日本の精神医療における人権侵害は国内外で問題視されてきた。
しかし、国はこの現状を変えるために動いてこなかったというわけですね。


私たちの精神医療国家賠償請求訴訟研究会では、伊藤時男さんが原告となって、国が精神医療の現実を知りながら、何もしてこなかった責任(不作為責任)を追及する裁判をしているんです。


変わらない日本の精神医療の現状に、一石を投じようというのが国賠研なのね。


ここまでのお話いかがでしたでしょうか?
今回は紹介しきれませんでしたが、精神科の入院に関する問題は、歴史的な背景も関わっているとても複雑な問題です。
今後、そういったことも楽しくわかりやすくご紹介していきたいと思います!
(この企画がまだ続くかはわかりませんが・・・)
また、この企画ではいろんな立場の人にもお話を伺いたいとも考えています。
当事者の方はもちろん、医師や病院スタッフ、支援者など、さまざまな立場のご意見を紹介し、みんなでよりよい精神医療を模索していきたいと思います。
次回もお楽しみに!

(文責:NASUMI)