『障害』を考える 10《障害者権利条約・選択議定書》

Optional Protocol to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities

障害のある人の権利に関する条約の選択議定書
川島聡=長瀬修仮訳(2008年5月30日付)

★日本は未批准、未署名

 この議定書の締約国は、次のとおり協定した。

第1条〔個人通報についての委員会の権限〕

1 この議定書の締約国(以下「締約国」という。)は、障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)が、当該締約国による条約規定の侵害の被害者であると主張する当該締約国の管轄の下にある個人若しくは集団により提出される通報又はこれらの個人若しくは集団のために提出される通報を受理し及び検討する権限を有することを認める。

2 委員会は、この議定書の締約国でない条約の締約国についての通報を受理してはならない。

第2条〔通報を受理できない場合〕

 委員会は、次の場合には、通報を受理することができないと判断する。

(a) 通報が匿名である場合

(b) 通報が、通報提出の権利の濫用を構成する場合、又は条約の規定と両立しない場合

(c) 同一の事案が、委員会によりすでに審査された場合、又は国際的な調査若しくは解決のための他の手続により審査されたか若しくは審査されている場合

(d) 利用可能なすべての国内的な救済措置を尽くしていない場合。ただし、当該救済措置の実施が不当に遅延する場合又は効果的な救済をもたらす可能性に乏しい場合は、この限りでない。

(e) 通報が、明らかに根拠を欠いている場合、又は十分に立証されていない場合

(f) 通報の対象となる事実が、関係締約国についてこの議定書が効力を生ずる前に発生した場合。ただし、この議定書が効力を生じた日以降も当該事実が継続している場合は、この限りでない。

第3条〔関係国への照会〕

 委員会は、前条の規定に従うことを条件として、いずれの通報についても、関係締約国の注意を内密に喚起する。注意を喚起された国は、6箇月以内に、その事案及び当該国がとった救済措置がある場合には当該救済措置を詳らかにした書面による説明又は声明を委員会に提出する。

第4条〔暫定措置〕

1 委員会は、通報が受理されてから本案の決定に至るまでのいつでも、関係締約国に対して、当該締約国による緊急の考慮を促すため、当該通報を行った被害者に生じ得る回復不能な損害を回避するために必要となり得る暫定的な措置を講ずることを求める要請を送付することができる。

2 委員会が1の規定に基づく裁量を行使する場合であっても、これは当該通報の受理可能性又は本案についての決定を意味するものではない。

第5条〔通報の審査〕

 委員会は、この議定書に基づき通報を審査する場合には、非公開の会合を開催する。委員会は、通報を審査した後、その提案を、勧告がある場合には勧告とともに、関係締約国及び請願者に送付する。

第6条〔委員会の調査〕

1 委員会は、締約国による条約に定める権利の重大な又は系統的な侵害を示す信頼できる情報を受領した場合には、当該締約国に対し、当該情報に関する審査に協力し及びこのため当該情報に関する見解を提出するよう要請する。

2 委員会は、関係締約国により提出されることのあるすべての見解を他の信頼できる入手可能な情報とともに考慮に入れた上で、1人又は2人以上の委員を指名して調査を行わせ、及び委員会に緊急に報告させることができる。この調査には、正当な根拠及び当該締約国の同意がある場合には、当該締約国の領域への訪問を含めることができる。

3 委員会は、2の調査の結果を審査した後、当該調査結果をその意見及び勧告とともに関係締約国に送付する。

4 関係締約国は、委員会により送付された調査結果、意見及び勧告を受領した後6箇月以内に、その見解を委員会に送付する。

5 2の調査は内密に行われるものとし、また、関係締約国の協力はこの手続のすべての段階で求められる。

第7条〔調査に応えて講じた措置〕

1 委員会は、関係締約国に対し、この議定書第6条に基づいて行われる調査に応えて当該締約国が講じたいずれの措置の詳細をも、条約第35条に基づく報告に記載するよう要請することができる。

2 委員会は、必要なときは、第6条4に定める6箇月の期間の終了後、関係締約国に対し、調査に応えて当該締約国が講じた措置を委員会に通告するよう要請することができる。

第8条〔第6条及び第7条に対する適用除外宣言〕

 各締約国は、この議定書の署名若しくは批准又はこれへの加入の際に、委員会が第6条及び第7条に規定する権限を有することを認めない旨を宣言することができる。

第9条〔寄託先〕

 この議定書の寄託先は、国際連合事務総長とする。

第10条〔署名〕

 この議定書は、2007年3月30日に、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。

第11条〔拘束されることについての同意〕

 この議定書は、条約を批准し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した国により批准されなければならない。この議定書は、条約を正式に確認し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した地域的な統合のための機関により正式確認が行われなければならない。この議定書は、条約を批准し、正式に確認し、又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名していない国又は地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。

第12条〔地域的な統合のための機関〕

1「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、条約及びこの議定書が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受けたものをいう。当該機関は、その正式確認書又は加入書において、条約及びこの議定書の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。その後は、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託先に通報する。

2 この議定書において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関に準用する。

3 第13条1及び第15条2の適用上、地域的な統合のための機関によって寄託されるいずれの文書をも数えてはならない。

4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この議定書の締約国であるその加盟国の数と同数の票を投ずる権利を締約国の会合で行使することができる。当該機関は、その加盟国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。

第13条〔効力発生〕

1 条約の効力発生を条件として、この議定書は、10番目の批准書又は加入書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

2 10番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこの議定書を批准し、正式に確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、この議定書は、当該国又は当該機関によりこれらの文書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

第14条〔留保〕

1 この議定書の趣旨及び目的と両立しない留保は認められない。

2 留保は、いつでも撤回することができる。

第15条〔改正〕

1 いずれの締約国も、この議定書の改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、改正案の審議及び決定のための締約国の会合の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会合の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会合を招集する。会合において出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長が、承認のため国際連合総会に提出するものとし、その後は受諾のためすべての締約国に送付する。

2 1の規定に従って採択されかつ承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2以上が受諾書を寄託した後30日目の日に効力を生ずる。その後は、いずれの締約国についても、自国の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。

第16条〔廃棄〕

 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この議定書を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。

第17条〔アクセシブルな様式〕

 この議定書の本文は、アクセシブルな様式で利用できるものにしなければならない。

第18条〔正文〕

 この議定書は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの議定書に署名した。