『障害』を考える 4《統合と包摂》

求められているのは包摂・インクルージョン

インテグレーション=統合の概念
インクルージョン=包摂の概念

インテグレーション=統合。社会全体のなかには入っていますが、その中で障がいのある人たちだけが小さなグループとして分離されています
インクルージョン(包含)。障がいのある人もない人もみんないっしょに生活しています。

日本政府は障害者の地域社会での活動を否定してはいません。逆に「社会参加促進を図る」としています。私たちも「街にカエロウ」とすべての障害者が地域で暮らせるような社会を目指すとしています。何が違うのでしょうか。

社会的入院がなくなったとして、受け入れ先の地域社会はどうあるべきなのでしょうか。

いろんな意見があると思います。異論大歓迎。みんなで考えていきたいですね。
ただ、政府=行政は明らかにインテグレーション・統合をめざしていますね。

障害者権利条約の翻訳違い

野口友康という人が「フル・インクルーシブ教育の実現にむけて──大阪市立大空小学校の実践と今後の制度構築」(明石書店、2020年)の中で面白いことを言っています。それは障害者権利条約第24条の2項の解釈をめぐって外務省と川島聡・長瀬修氏の翻訳が異なっていると指摘しています。

4条2項(a)の原文は以下の通りである。
(a) Persons with disabilities are not excluded from the general education system on the basis of disability, and that children with disabilities are not excluded from free and compulsory primary education, or from secondary education, on the basis of disability
(United Nations 2006)下線部はすべて筆者挿入、以下同じ。
(a) 障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと及び障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。(外務省 仮訳)
(a) 障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、及び障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。(川島聡=長瀬修仮訳 2008年5月30日付) 

条文の一節にある「general education system」の日本語訳を、日本政府(外務省仮訳)は「教育制度一般」、川島聡=長瀬修仮訳2008年5月30日付は「一般教育制度」と訳している。
この訳に対して、清水貞夫は、外務省が文部科学省を意識した「誤訳」と解釈し「通常の教育システム」が正しい訳としている。その根拠は、清水によると、日本では小・中学校は市町村が、特別支援学校は、都道府県が設置・管理する学校であり、それぞれは分立しているためである。したがって、特別支援学校は「一般教育制度」(川島聡=長瀬修仮訳 2008年5月30日付を参照)の外に置かれていることの確認が必要だという(清水 2012, pp.32-34)。もし、外務省が「一般教育制度」という訳語にすると、「障害のある人が、障害を理由に通常学校制度から排除されないこと」という意味となり、特別支援学校が通常学校に包摂されなければならないという解釈が成り立つ。

その後、文部科学省は、外務省の見解として条約第24条に規定する「gene-ral education system」(教育制度一般)の内容については、各国の教育行政により提供される公教育であること、また、特別支援学校等での教育も含まれるとの認識が条約の交渉過程において共有されていると理解していると述べた。したがって、「general education system」には特別支援学校が含まれると解されるという立場をとった。文部科学省の資料をみると「general education system」は「一般的な教育制度」と訳されており、ここでも、特別支援学校は「一般的な教育」に含まれるとしている。

最終的に「the general education system」は「一般的な教育制度」という訳で、特別支援教育も一般的な教育制度に含まれると強引に言い張っているわけだけど、案外、外務省仮訳に官僚の本音が見える気がしますね。

権利条約の事前質問では
教育(第24条) 24. 以下についての情報を提供願いたい。 (a) ろう児童及び盲ろう児並びに知的又は精神障害のある児童を含め,障害のある全ての者のために,分離された学校における教育から障害者を包容する(インクルーシブ)教育に向け移行するための,立法及び政策上の措置並びに人的,技術的及び財政的リソース配分。 (b) 個別化された支援を提供するためにとられた措置。全てのレベルにおける一般の(mainstream)教育において障害者に対する合理的配慮の拒否を防ぐためにとられた措置。また,質の高い障害者を包容する(インクルーシブ)教育についての教職員に対する制度的な研修を確保するための措置。 (c) 全てのレベルの教育(第三次教育及び高等教育を含む)における,性別,年齢,障害で他の生徒と比較し分類した障害のある生徒の退学率。

人権委員会は政府がどうつくろおうとしても、特別支援教育は分離教育だと喝破してますね

日本型ソーシャルファーム

ソーシャルファーム:。1970年代、精神病院で入院していた患者が退院後、自立して生活できるよう地域住民と共に働く場所をつくったのが始まり。イタリアからはじまり、ドイツやイギリス、フランス、フィンランド、ポーランド、ギリシャなどヨーロッパ中にも拡大し、ヨーロッパ全体で約10,000社が設立されました(2008年)。精神障害者だけでなく後には障害者全般、刑務所出所者など、一般の労働市場では就労することが困難な人を広く対象とするようになりました。
 
イタリア型ソーシャルファーム
1971年 フランコ・バザーリア トリエステ県立精神病院院長着任、改革着手
 映画「昔Mattoの町があった」を見よ!
1972年 労働者生産協同組合(CLU)設立
1978年 イタリア・バザーリア法成立 ・精神病院閉鎖
1991年 社会的協同組合法成立
1999年 精神病院完了
・精神病院廃止運動と一体化して社会的協同組合=ソーシャルファーム創設が進められた。
・ソーシャルインクルージョン⇔ソーシャルファームでの労働を通して社会的包摂を実現
・精神保健対策をするための1つの手段、地域の中で生活を可能にするための1つの手段としてのソーシャルファーム
・社会的に不利な人、障害者、出所者などが働く場所。もともと、イタリアのものはその人たちと一般の労働者が一緒になって働く。精神病院解体運動と一体不可分のものであった
・給与は一般労働者とは変わらない。
 
参考 https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n435/n435017.html

日本型ソーシャルファーム
2008年ソーシャルファームジャパン設立(民間団体)
2019年12月 東京都ソーシャルファーム条例(都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例)成立。全国初。
2020年 東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針発表
<ソーシャルファームの意義>
   1 事業からの収入を主たる財源として運営
   2就労困難者と認められる者を相当数雇用
   3就労困難者と認められる者が、他の従業員とともに働いている社会的企業
<ソーシャルファームの役割>
   1自律的な経済活動のもと、社会的企業として就労困難者と認められる者の雇用の場を拡大し自立を進める
   2地域の産業及び雇用に貢献することを通じて、ダイバーシティの実現を図る
<ソーシャルファーム認証の単位と基準>
   1事業所ごとに認証を行う
   2経営主体は法人格を有する
   3ソーシャルファームとしての事業を行うために必要な財務基盤・実施体制・実現可能性の高いソーシャルファームの事業計画がある
   4他の事業所と経理が区分され、当該ソーシャルファーム単位で収支の状況等を把握できる
   5就労困難者と認められる者の配慮すべき実状等に応じた雇用管理や支援を適切に行える施設・設備・人材等を有している
   6従業員の総数の20%以上が就労困難者と認められる者であり、かつ就労困難者と認められる者の雇用者数が3人以上である
<就労困難者と認められる者とは>※以下をすべて満たす
   1就労を希望している者
   2心身の障害をはじめ、社会的、経済的、その他の不自由により就労することが難しい者
   3認証審査会において配慮すべき実情等に応じた支援が必要であると認められた者
<障害福祉サービス事業所を運営する法人および特例子会社等について>
   1障害福祉サービス事業所の運営法人の場合、障害福祉サービス事業所とは別にソーシャルファームを設立する場合は認証対象とすることができる
   2特例子会社等の場合、その事業所において障害者以外の就労困難者と認められる者を雇用する場合には、認証対象とすることができる(審査基準となる就労困難者と認められる者の雇用者数は、障害者を除いた就労困難者と認められる者の人数で算出する)
 
  参考 https://shigoto4you.com/social-farm_tokyo_rules_support/

ソーシャルファームは特例子会社制度と結び着くことによって、ますます日本的に変質し、行政と一体的に推し進められています。

日本的変質 
ソーシャルファームを大手企業が特例子会社として設立し、その非正規社員として障害者を雇用。ソーシャルファームの運営そのものは、運営会社に委託。運営会社の指導員が障害者社員を指導し、「一緒に就労」。親会社の一般社員と一緒に就労することはありません。

・親会社には障害者雇用を推進したとして、補助金が支給される。
・障害者総合支援法で規定される訓練等給付の就労継続支援などで得られる賃金よりはるかに高賃金
 
ある社会の中に別の小社会をそのまま取り込み、社会間の交流はほとんどない、もしくは経済的交流のみ
→教育制度一般の中にあれば日本の特別支援教育はインクルーシブだとする論理とおなじ理屈で日本型ソーシャルインクルージョンが進められています。
)運営会社エスプールプラス さいたま市ソーシャルファームの場合

日本共産党さいたま市議団ホームページ http://www.jcp-saitama.jp/policy/shisatsu/zenku/1614.html より転載

特別支援学校にしろ、ソーシャルファームにしろ、障害者施設にしろ、みんな日本の地域社会の中に『障害者ムラ』として取り込みながら、そのムラ社会とその外側の多数社会との交流はほとんど無い、という特徴があります。

こういう『統合』された社会ではなくて、みんなごちゃまぜの包摂社会が良いとは思うし、それが自然な姿ではないかなぁと思う反面、異なった言語使用者が混ざった場合、いったいどうなるのだろう、という疑問もわくんだな。運動する側の限界点も存在すると素直に思うわけ。
異言語間でのコミュニケーションが同一言語間のコミュニケーションと遜色なく行なわれなければ、結局同一言語同士でのコロニーができて、異言語コロニー間のコミュニケーションはなくなっていくのではないか、とも思うし。

インクルーシブって何だろう

ムカシ、障害児を地域の学校ではなく、養護学校(現・特別支援学校)に入れさせようとする行政に対して『どの子も地域の学校へ』を掲げた養護学校義務化反対運動がありました。でも、この運動に聴覚障害者は含まれていませんでした。ろう者のことを思い浮かべることもなかった。結果として、ろう者を排除していたのではないかと思うの。
手話を使うろう児教育を排除したうえでのインクルーシブ教育はありえません。
多言語使用できる教師の育成という教育システム全体の再設計が問われています。

教育と同じことが地域社会のあり方にも言えるのではないかと思います。聴覚障害者の文化、精神障害者の文化・・・さまざまな文化の集合体であることを自覚すること。多文化共生をないがしろにしてはソーシャル・インクルージョンも成立していかないのだろうと思います。

(文責・MAN太郎)