第一次訴訟(伊藤裁判)の争点と現状
伊藤さんの受けた苦しみは多くの人に共通する
古屋龍太(精神国賠研代表)
伊藤時男さんを原告とする第一次訴訟は、2020年9月30日に提訴されました。
2021年3月1日の第1回口頭弁論では、伊藤さんは法廷で自作の詩を朗読したうえで、裁判を決意した気持ちを手を震わせながら訴えました。
原告代理人の弁護団の意見陳述では、①人生の大半を精神科病院内で過ごすことを余儀なくされた人は原告だけではない、②現在の入院患者約28万人のうち約13万人が強制入院の状態にある、③うち約5万人は国も「受け入れ条件が整えば退院可能」と認めている、④入院が5年以上の高齢者の約3分の1は死亡退院となっている、⑤世界では1970年代以降精神病床を減らしコミュニティケアに転換している、⑥国際機関の勧告等を受けて日本も脱施設化に転換する機会は何度もあった、等々を示したうえで、「国は、このような精神障害者に対する基本的な人権が侵害された状況を漫然と放置してきました。私たちは、この裁判で、この日本の政策の被害者の一人である原告の訴えを通じて、この国の責任を問います」と述べました。
第2回口頭弁論では、被告国側は提訴内容に対して「不知」もしくは「否認」の姿勢で全面的に争う姿勢を示しました。その後の裁判では、「国賠法上の請求に当たらない」として門前払いを裁判所に求めています。また、具体的な歴史的事実の評価についても「適切な行政施策を行なってきており不作為はない」として、すべて否定しています。
以降、これまでに13回の裁判が行なわれています。裁判は東京地方裁判所で最も大きい103号法廷(傍聴104席)で行なわれています。原告側代理人弁護団は8名、被告国側は厚労省・法務省の訴訟専門官等12名です。国賠は民事裁判ですので、刑事事件の「公判」と異なり、毎回の「口頭弁論」で準備書面と証拠書類のやり取りがなされる、とても静かな裁判です。初めて参加された方は拍子抜けするくらい、短時間で終わります。裁判後には別会場に移動して報告会を開き、弁護士から争点のポイントを解説してもらっています。最近では毎回80名以上の方が参加しています。
精神国賠は、ハンセン病訴訟や旧優生保護法訴訟と同様に、長年にわたる国策の過ちと国の不作為責任を問う初の歴史的な裁判です。2024年には歴史的な結審を迎えます。傍聴行動と裁判報告会に、多くの方のご参加をよろしくお願い致します。
参考文献:古屋龍太(2023)精神医療国家賠償請求訴訟の裁判経過と争点.日本社会事業大学研究紀要、69 ; 151-168
この社会の枠組みを変えよう
東谷幸政(国賠研副代表)
滝山病院、七生病院、成仁病院、精神科病院での不祥事が続いています。いつまでこのような状況を続けていくのでしょうか。 450回にのぼる国会質問や、審議会で何度も「地域精神医療への移行」が提唱されてきたにもかかわらず、事態は変わりませんでした。
司法の場で、国会の立法不作為や国=厚生労働省の行政不作為が認定されなくては変わりようがありません。私たちは、諸団体や職能団体、学会等との連携を目指しながら日本の精神科医療、保健、福祉の根底的な変革を求めて、そのための裁判闘争を行なっています。
それとともに、NHK「精神病院 VS コロナ」で報道された酷い人権侵害の処遇を受けた患者さんが東京都と七生病院を訴えています。東京都は監督責任を全く果たしていません。七生病院は骨までに達する褥瘡(床擦れ)や、おむつ交換しないままの糞尿まみれで放置、コロナ感染者をまとめて外から鍵をかけ、大部屋のなかで排泄をさせるなど、あらゆる人権侵害を繰り返してきました。私たちは腹の底からの怒りを感じています。これが日本の精神医療の実態です。このような実態を知りながら、変えようとしない国、都道府県、精神科病院。責任は逃れられません。
さらに、ともすれば、「障害者や高齢者など〝厄介者〟は施設に収容すればよい」とする風潮のなかで、家族もまた被害者です。介助の必要がある人は社会が責任を持つ。そうならなければ、地域で暮らすことはできません。
まちに帰ろう。まちを変えよう。
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