■7・10控訴審判決日

伊藤時男さん(以下「時男さん」と記します)を控訴人とする控訴審判決が、7月10日(木)10時半に東京高裁で出されました。傍聴券の抽選が行なわれ、傍聴席は満杯となりました。裁判官は「主文 控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」のみを読み上げ、判決理由を述べることなく、30秒で閉廷しました。
裁判所正門前で「不当判決」の結果報告を行ないました。時男さんは「裁判官が理由も言わないでただ棄却すると言ったのが納得いきません。今後のことは国賠研のみなさんと相談して決めたいと思います」とコメントしました。その後、厚生労働省前まで移動し、一同は「不当判決、許さないぞ!」と抗議のシュプレヒコールをあげました。
午後から日比谷コンベンションホールで「判決報告会」を開き、長谷川弁護士から判決内容の解説が行なわれました(判決文の全文および要旨は、本会のホームページに掲載していますのでご確認ください)。報告会の参加者からは、最高裁への上告を求める意見が多く出されました。報告会終盤で、黙って皆さんの意見に耳を傾けていた時男さんから「控訴が棄却されてがっかりしました。上告するのは難しいと思っています。やめようと思っています。上告する気持ちはありません。私の気持ちを大切にしてください。みなさん、これまでありがとうございました」との意思表明がなされました。
会場は静まり返り、時男さんの気持ちを推し量る空気に包まれました。古屋より、報告会でのご意見を踏まえて今後の上告可能性について検討を加え、時男さんの意向を尊重しながら方針を決定していくことを伝えました。司会の飯島さんからは、時男さんへのねぎらいの言葉が語られ、報告会は閉会となりました。

■7・11専門委員会

控訴審判決の翌11日に、精神国賠研では専門委員会を開き、今回の控訴審判決文の内容について改めて長谷川弁護士からレクチャーを受けて、上告の意義や可能性について意見交換を行ないました。その内容を、時男さんに伝えて、原告・控訴人としての意思確認をすることになりました。
翌12日に、古屋から時男さんに電話して、最高裁への上告について専門委員会の意見を伝えました。時男さんからは「2回も棄却されて、もう疲れた。負けるのわかっていて、もう闘えないよ。上告はしないです。これまで応援してくれた皆には悪いけど。すみませんと、皆さんに伝えてください」とのことでした。「もう戦えない」との重い言葉を受けとめ、会員の皆さんに時男さんの言葉を伝えることを約束しました。

■7・13月例会

翌13日の月例会では、改めて控訴審判決の内容を共有した上で、時男さんの言葉を伝えて、率直な意見交換を3時間かけて行ないました。参加された31名の方からは、高裁の敗訴で終わりとせず、最高裁への上告の意義と期待が多数寄せられました。一方で、「もう疲れた」と述べた原告の時男さんを慮る言葉が語られ、全ての方から「最終的には原告の意思を尊重したい」ことが語られました。時男さんが、裁判の重圧と加齢に伴う身体的・心理的負担でかなり疲れてきていることを、皆さん心配しておられました。
月例会の結論として「最高裁への上告には意義がある」「会員の意見を時男さんに伝えてほしい」「その上での時男さんの判断を皆で尊重する」ことが確認されました。この内容を、古屋から時男さんに伝えて、その意思を改めて確認することとなりました。

■時男さんの言葉

時男さんにじっくり考えていただくためにも、月例会でのご意見を当日の議事録から要約して手紙で伝えることとしました。A4判6ページの手紙をまとめ「思うところがあれば電話をください」と記して7月15日に速達で発送しました。
時男さんからの電話を待ちましたが、電話はかかってきませんでした。17日夕方に古屋の方から電話をすると、「全部、最後まで読んだよ。皆、上告してほしいようだけど。でも、もう無理だよ。限界だよ。皆さんへの手紙を書いて、今朝ポストに入れたから、それで皆に気持ちを伝えてほしい」とのことでした。「忍耐強さ」を身上としてきた時男さんが口にした「もう無理」「限界だ」という端的な言葉は、率直な心情を表わす重い言葉であると受け止めました。

■これから

時男さんの「上告はしない」という意思を、私たちは尊重したいと思います。上告期限の2週間が迫る中、メーリングリストを通じて会員の皆さんにも「上告はしない」旨をお伝えするとともに、運営委員会名で「声明」を発出しました。2020年9月の提訴以来4年と10カ月、時男さんは粘り強く闘い続けました。本当にお疲れさまでしたと、感謝とねぎらいの言葉を私たちは送りたいと思います。
最高裁への上告は断念することとなりますが、精神国賠研の活動はこれからも続きます。判決報告会や月例会でも「これから」にかかわる意見や提案等もいただいています。新たな原告による二次訴訟、三次訴訟の可能性を追求していきます。精神障害をもつ方へのまなざしとこの国のあり方を変えていく闘いは、まだまだ続きます。会員の皆さまの変わらぬご理解とご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。