人権侵害が放置されるのは何故か
そもそも超長期入院は何故発生し、何が問題なのか
我が国の精神科治療における入院は、諸外国と比較して長期入院であることが知られています。
その理由として、入院する際に本人の意思で入院しない「非自発的入院」制度の存在があることが挙げられます。とりわけ、精神保健指定医1名と家族等の同意で入院が決定する「医療保護入院」は、我が国独自の制度であり「保護」という観点から精神疾患患者を入院させます。
入院も退院も医師と家族の同意で決定される
「医療保護入院」にて入院した患者は、退院が医師と家族の合意にて決定されます。そうなると、病状自体は地域生活を送れるくらいに回復していても、退院許可が降りないという事態が発生することがあります。
例えば、医師は、地域生活を送るために家族と同居することを考え、「家族の許可が降りればね」と言い、家族は、病状回復を目指して病識が得られることを考え、「医師の許可が降りればね」と言い、双方の合意がなされないまま入院期間が長期になってしまう可能性があります。そうなると、地域生活が可能であるのにもかかわらず退院できない「社会的入院」という状態になります。
私宅監置制度以来、精神疾患患者のケアを家族に委ねてきた我が国は、第二次世界大戦後、精神科病院運営国庫補助による病院増設、ライシャワー事件による警察庁の介入もあり、治安維持の観点から精神科病院が増設されていきました。また、高度経済成長期において、精神疾患患者を精神科病院に隔離収容させて、その家族を経済活動に参加させることで経済発展を優先する施策を選択しました。あくまでも精神疾患患者は「治安対策」や「保護」の対象とされ、その家族も「保護義務者」や「保護者」として責任を負う立場だったのです。
精神科病院における精神疾患患者の処遇も劣悪でした。宇都宮病院事件や大和川病院事件、最近では滝山病院事件などに代表される医師や医療従事者による精神疾患患者に対する人権を無視した処遇は、枚挙にいとまがありません。また、精神科病院の経営者はベッドコントロールの観点から、精神疾患患者を退院させることに抵抗を示す場合もありました。
精神障害者の社会復帰は想定外
そして、精神障害者の社会復帰が想定になかったため、地域生活を送るための住居や日中活動の場所などの整備も遅れていました。また、我が国における精神障害者に対する地域住民による偏見は、精神障害者と「かかわる」経験がないことで生じることや、世間を揺るがす事件などでイメージを強固にさせてしまうメディアの責任もありました。
政府の施策方針、精神科病院の経営方針、社会資源の乏しさ、地域住民の無理解やメディアでの取扱いなどの状況も相まって、何十万人もの精神疾患患者の存在は長期にわたり「なかったこと」にされ、入院継続させられたままでした。そして、「医療保護入院」の制度上「家族」から協力が得られず、40年、50年と長期入院になっていきました。精神疾患患者は「施設症」を発症し、自分で選択する機会がない、病院で暮らし続けるのがいい、「退院したい」と思わなくなる、生きる希望を失うという「ごく当たり前の生活」を送ることが奪われていきました。
OECD諸国の精神病床推移(人口1,000人あたりの精神病床数)
1960年代以降、欧米では精神病床を減らして入院を抑制しコミュニティメンタルヘルスにを目指す「脱施設化」が進みました。
しかし、日本はこの流れと逆行して隔離収容政策を進め、精神病床を増やし続け、多くの長期入院患者を生みました。
近年、日本の精神病床も減り続けていますが、現在も日本は「世界一の精神科病院大国」と呼ばれています。
精神国賠裁判の原告患者・伊藤時男さんは、累計入院期間は45年にもおよび、日本の精神医療政策の被害者の一人です。

在院期間別の退院後転帰割合(全国)※2024年の退院患者28,936人
在院期間別に、退院者の退院先を示したものです。
1か月未満~6ヶ月未満の退院者は自宅(家族同居・独居)に帰る人が多いですが、半年を過ぎると大きく減ります。
入院が長期になるにつれて増えていくのは他病院への転院で、20年以上の入院者は過半数が精神科病棟で死亡しています。
入院期間にかかわらず介護施設への入所が多いのは、それだけ精神科病院が高齢者であふれていることを示しています。

平均在院日数の国際比較(2021年)
OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均在院日数は35.45日で、それよりも短い国が4分の3を占めます。
日本の平均在院日数は275.1日と突出して長く、OECD諸国平均の7.8倍に達しています。
新規入院患者の短期入院化は進んでいますが、長期社会的入院者が多数いることを示しています。
資料:OECD Health Data(日本は厚生労働省 病院報告)を元に作成。
※各国により定義は異なる


